森さん家のひるやすみ [1話]タネのちから

フウシカオーガニックを手掛ける森隆博さん、薫さんとお昼休みをご一緒して、
自然と共にある畑と田んぼのこと、お二人の仕事と暮らしを見つめる連載。

第1話は、「タネのちから」。

9月も終わりだというのに、勢い衰えない暑さの正午、森さん夫妻は畑近くに作業場として借りている小さなお家で、暫しのお昼休みをとる。さっきまで大地と繋がっていた正真正銘の採れたて茄子やピーマンは、薫さんがごま油で手早く焼いて醤油をひと回し。トマトとキュウリは塩とオリーブオイルでサラダに仕立ててくれた。
「よかったら食べて~」という薫さんの言葉に甘えて、一口いただく。素材本来の旨みがじわじわと伝わってきて、その美味しさに満たされる。ただ切っただけ、炒めただけと薫さんは笑うけれど、手をかけ育んだ我が子の持ち味を、親はちゃんと知っている、そういう温かな美味しさだった。

森さん夫妻の一日は、お天道様と共に始まる。日ごとに変わる出荷先に合わせて、パズルのように仕事が組み立てられている。野菜の瑞々しさをそのまま届けたい宅配野菜は、朝採りにこだわる。特にフウシカ自慢の茄子は朝採りが欠かせない。そして出荷の合間や早朝、夕方に必ず行っているのが50種類にも及ぶ野菜のお世話だ。それぞれやり方に違いはあるが、一貫していることがある。それは、それぞれのタネに寄り添い、余計なことはしない、ということ。

フウシカオーガニックの畑では、農薬や化学肥料はもちろんのこと、動植物由来の有機肥料も外から持ち込まない。種を蒔いた後、苗を植えた後、個々の成長に合わせて幾度も手を添えるが、畑の土づくりはしない。野菜のいのちは、そこにある自然環境と、苗自身のちからが育むのだという。
そして、時を同じくして共に育った雑草も除け者にしたりしない。なぜなら雑草には、その地の多様性を守り、畑の保水に大切な役割があるからだ。必要により刈る時も、伸びてきたらすぐ刈るのではなく、実がつくのを待つことで土に栄養をもたらすという。
「森では人が土を作ったりしないですよね。そこにある環境と、その地に住む微生物と植物の循環でプラスになり続けていく。難しいこともあるけれど、フウシカの畑は、森がお手本なんです」と隆博さん。

隆博さんは続ける。「タネが持つ生命力を100%引き出すことができれば、実は成るんです。それを150%引き出そうとするから、あれこれ策が必要になる。でも、それって不自然ですよね。たとえ成功して豊作になったとしても、作り過ぎれば捨てることになる。環境負荷を減らすためにもできるだけ余計なことはしたくないなと。そもそも農業には、種まきの時期や収穫の時期、環境との相性など、タネが100%の力を発揮するのにマイナスになる要素がたくさんあるから、それを見極めて適切に手を添えることが僕の役割。それを50種類全てでやることが本当に難しいんです」。

 

取材の帰りに「今週の宅配野菜ね!」と、段ボールからはみ出た野菜セットを手渡してくれた。その、形も色も様々な野菜たちを見て思う。フウシカオーガニックの野菜づくりは、なんだか子育てと通じている。それぞれの生き様を丁寧に見つめ、時に見守り、時に手を差し伸べる。そう思うと、同じ野菜でもこれまでとは違った風に見えてきて、なんだかとても尊い存在に思えた。

「タネは、始まりにして終わりなんです。野菜だって人だって、そのままでいい」。

隆博さんがぽつりと放った言葉は、清々しい風となって私の背中を押してくれた。

 

written by Chiaki Nakamori